御縣神社(みあがたじんじゃ)

要旨

徳島県小松島市中郷町(豊国神社境内)に鎮座する式内小社。別称・宮方神社。一般には大己貴命または事代主命を祭神とするが、社伝では**天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)**を祀ると伝わる。社名の「縣(あがた)」は大化前の皇室直轄地・禁足地を指し、南方に小字「県前」が残る。天之菩卑能命を主祭神とする式内社は徳島を除き全国に4社のみで、阿波説では当社をその元宮とする。阿波説ではさらに、当社祭神を天照の五男神の第二子に位置づけ、もと徳島市八万町柿谷の「二王子祠」が当地へ移されたものと伝える。大正2年、小松島線敷設に伴い豊国神社へ合祀された。


1. 命題の構造

観点通説阿波説
主祭神大己貴命・事代主命天之菩卑能命(社伝)
社の性格勝浦郡の一式内小社全国の天穂日命祭祀社の元宮
祭神の由来地不問八万町柿谷の二王子祠 → 当地へ遷座
「縣」の含意地名皇室(天津神)直轄地・禁足地の名残

2. 基本情報

項目内容
社名御縣神社(別称:宮方神社)
所在地〒773-0016 徳島県小松島市中郷町 豊ノ本(豊国神社境内に合祀)
延喜式表記阿波国 勝浦郡 御縣神社(小社)
社格式内小社
主祭神天之菩卑能命(伝)/一般には大己貴命・事代主命
合祀大正2年、小松島線鉄道敷設に伴い豊国神社へ合祀

3. 祭神

3-0. 祭神候補の比較(中立的併記)

当社の祭神は典拠により分かれる。下表に主要三説を整理する。

説祭神根拠 / 出典
一般説(主流)大己貴命 または 事代主命genbu.net『豊国神社(小松島市)』、Wikipedia『豊国神社(小松島市)』、shrineheritager.com、powerspot-tour.net 等。出雲系祭祀との関連で広く採用されている説。
阿波説天之菩卑能命(天菩比神)kojiki連載 awa_10、awa-otoko-blog(2015-02-07 阿波の豊国大明神)、goutara-blog(2012-05-26 四王子神社)等。「四王子」「五王子」伝承では第二皇子 天之菩卑能命を御縣神社祭神とする。
県主神説(参考)御県神 / 県主祖神社名「御縣」自体が大和の御県神社群(高市御縣坐鴨事代主神社等)と同型で、ヤマト王権の県(あがた)管理にかかる神格を祀る式内社の系統である可能性。事代主命説とは整合的。
  • 主流説(大己貴命/事代主命)と阿波説(天菩比神)は事代主-大己貴系の出雲神統内で大きく見れば同系。記紀神話で天菩比は大己貴命の和御魂を司る神でもあり、阿波説の「四王子・五王子」枠組みでは天照大神第二皇子=天菩比とする。
  • 県主神説は社名語義から県(あがた)管理職の祖神を祀る系統とする。大和の高市御縣坐鴨事代主神社が示すように 「御縣 + 事代主」 の組み合わせは大和でも先例があり、阿波の御県神社が事代主を祀ることと整合する(社名「縣」の含意は4節を参照)。

以下、本節では阿波説が比定する 天之菩卑能命 を中心に詳述する。

3-1. 天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)

  • 天照大御神と須佐之男命の誓約(うけい)で生まれた五男三女神の一柱。天照大御神の右のみずらの勾玉から成り、第二子・天忍穂耳命の弟神にあたる。
  • 国譲り神話で、高御産巣日神と天照大御神が葦原中国平定のため最初に派遣した神。しかし大国主神に懐柔され3年戻らなかったと『古事記』は伝える。
  • 一方『出雲国造神賀詞』では、地上の悪神を鎮め、子の建比良鳥命・経津主神とともに地上を平定した英雄とされる。
  • 子の**建比良鳥命は出雲国造および土師氏らの祖神**。

4. 社名「縣」と「県前」小字

  • 「縣(あがた・県)」は大化以前、皇室(天津神)の直轄地・禁足地を指す。
  • 現・豊国神社の南方に小字「県前(あがたまえ)」が残り、この一帯がかつての「縣」であったと推定される。
  • つまり天之菩卑能命がこの地で皇室天津神系の土地を有していたことになり、『出雲国造神賀詞』の「地上平定の英雄」伝承の方が実状に近い可能性がある。

5. 八万町二王子祠からの遷座伝承

阿波説では、当社祭神を天照の五男神の祭祀群に連ねる。

  • 徳島市八万町には誓約で生まれた五皇子の祠(一〜五王子)があったと『八万村史』が伝える。
  • うち第二皇子・天之菩卑能命の二王子祠は八万町柿谷にあり、文化年間の古地図に記載が見える(柿谷の地神塔の地)。
  • 第二皇子は後年「陵墓ごと移された」とされ、現在の御縣神社(小松島市)として現存すると伝わる(awa-otoko, 2015-04-18)。
  • 兄弟神の祠は周辺に分布:一王子祠(福万谷・現存せず)、三王子祠(向寺山=現王子神社「猫神」)、四王子祠(長谷=現四王子神社)、五皇子は丈六町熊野神社。

6. 全国の天之菩卑能命祭祀との比較

天之菩卑能命を主祭神とする神社は全国に多くなく、式内社は徳島(当社)を除いて以下4社のみとされる:

神社所在備考
能義神社島根県安来市出雲四大神「野城大神」
出雲大社 境内 氏社島根県出雲市大社町出雲国造家祖神
天穂日命神社鳥取市福井前方後円墳上。因幡国造の氏神
馬見岡綿向神社滋賀県蒲生郡日野町神武朝に出雲から開拓神を迎えた伝

→ 阿波説では当社を、これら全国の天之菩卑能命祭祀社の元宮と位置づける。


7. 合祀の経緯と出土物

  • 大正2年、「小松島線」鉄道敷設の際に現・豊国神社境内へ合祀された。
  • かつての線路上に社(古墳?)があり、取り壊し時に勾玉・銅鏡が出土したと伝わる(行方・規模は不明)。

8. 史料

一次史料

  • 『古事記』神代上(誓約段・天之菩卑能命の成り)/神代下(国譲りでの派遣と不忠)
  • 『出雲国造神賀詞』(天穂日命・建比良鳥命の地上平定)
  • 『延喜式』神名帳(阿波国勝浦郡 御縣神社)

地誌・伝承

  • 『八万村史』(八万町の王子祠群の記載)
  • 文化年間の古地図(二王子祠の位置)
  • 『阿波志』(藤原憲輯):「祀典所載御縣神社、在中ノ郷村、稱宮方社」(中郷村に鎮座、通称「宮方社」)。なお『阿波志』別条では「御縣祠(みあがた)、中郷村竹林中。櫛御方命と関連か」とも記す(→阿波志_現代語訳)。

二次資料・Web

  • genbu.net「豊国神社 豊國神社(小松島市)」https://genbu.net/data/awa2/toyokuni_title.htm(祭神を大己貴命/事代主命とする)
  • Wikipedia「豊国神社 (小松島市)」(境内社御縣神社の祭神を大己貴命/事代主命とする)
  • shrineheritager.com「阿波国 式内社 50座について」https://shrineheritager.com/awanokuni/
  • powerspot-tour.net「豊國神社に隠された御縣神社」https://powerspot-tour.net/scene/shrine/toyokunijinjya-miakatajinjya/
  • 阿波説 kojiki連載 第98回(天菩比神)/awanonoraneko「全戸郷、の読み方 6」(2011-08-20)(阿波志引用:宮方社)

9. 関連神社・関連ノート

祭神・神格

同郡・近接の出雲系祭祀

  • 勝占神社 — 勝浦郡。事代主・大国主の阿波拠点とされる
  • 生夷神社 — 勝浦郡。事代主命(エビス神)生誕伝承

MOC・索引

  • 元宮ハブ_MOC(「○○の元宮は阿波にある」命題群)

  • 勝浦郡_Index(同じ郡の延喜式座数内訳)

  • 同境内:豊国神社(豊臣秀吉/木造豊太閤像)・住吉神社・瑜伽神社・加藤清正神社


10. 留保(中立的併記)

注意

  • 祭神は典拠により分かれる。一般説(大己貴命・事代主命)は genbu.net・Wikipedia・shrineheritager 等の複数の独立した二次情報源で主流として確認できる。一方、本ノートが詳述する主祭神「天之菩卑能命」は社伝・阿波説系記述に基づく伝承であり、両者は別系統の論拠に立つ。
  • 八万町二王子祠 → 当社への遷座、五皇子祠群の同定は『八万村史』・古地図・awa-otoko 氏の現地報告に基づく阿波説的解釈で、文献的検証は別途必要。一王子祠・二王子祠は現存しない。
  • 「全国の天之菩卑能命社の元宮」とする位置づけは阿波説的解釈であり、文献的検証は別途必要。
  • 県主神説(社名「御縣」=県管理の神格)は社名語義と大和 高市御縣坐鴨事代主神社の先例からの推論であり、当社祭神を直接県主神とする一次史料の確認には至っていない。
  • 論社の物理的同一性は近代以降の遷座・合祀により流動的で、原鎮座地(中郷村)と現鎮座地(豊国神社境内)は別個の議論を要する。
  • 出土した勾玉・銅鏡の行方は未確認。
  • evidence_type: shrine_origin / confidence: 2(社伝=天之菩卑能命説に対する評価。一般説=大己貴命/事代主命説は二次情報源で主流として確認できる)

出典:豊国神社・御縣神社(徳島県小松島市)豊臣秀頼より拝領「木造 豊太閤像」が唯一現存/天之菩卑能命を祀る神社の元宮(まことの道, 2023-01-12)/awa_otoko_05_神社巡り#2015-04-18-誓約の皇子達(八万町_王子祠、丈六町_熊野神社)(awa-otoko, 2015-04-18)/goutara_01_神社#2012-05-26-八万町 四王子神社(goutara, 2012-05-26)