玉作湯神社(たまつくりゆじんじゃ)
要旨
玉作湯神社(島根県松江市玉湯町玉造) は、玉造温泉の温泉街奥に鎮座する出雲国意宇郡の式内社(小)・旧県社。玉造部(玉作部)の祖神 櫛明玉命(八尺瓊勾玉を作った神)を主祭神とし、湯の神として 大国主命(大己貴神)・少彦名命 を、配祀に五十猛神を祀る。『出雲国風土記』(733頃)に「玉作湯社」、『延喜式』神名帳に「玉作湯神社」と「同社坐韓国伊太氐神社」が載る。鎮座地は風土記の 忌部神戸(いんべのかんべ) に比定され、当社は 忌部氏(斎部氏)の管掌下で玉類製造にあたった玉作部によって奉斎された とするのが通説的推測。花仙山一帯は弥生末期以来の玉作中心地(国史跡「出雲玉作跡」)で、碧玉・瑪瑙の勾玉・管玉を生産した。阿波説では、祖神 櫛明玉命を 忌部総祖 天太玉命 に従う五伴緒の一柱「出雲玉作忌部の祖」 とみて、当社を 阿波忌部(天日鷲命)と兄弟神格でつながる、出雲における忌部(玉作部門)の本拠 として位置づける(仮説、confidence 2〜3)。
1. 命題の構造
| 観点 | 通説 | 阿波説 |
|---|---|---|
| 主祭神 | 櫛明玉命(出雲玉作部の祖神) | 天太玉命に従う五伴緒の一柱「出雲玉作忌部の祖」 |
| 鎮座地 | 風土記「忌部神戸」、玉作部の奉斎地 | 出雲における 忌部(玉作部門)の本拠 |
| 湯の神(大名持・少彦名) | 道後温泉伝承に由来する温泉神の勧請 | 出雲=阿波の大国主・少彦名祭祀の延長 |
| 玉作技術 | 花仙山の在地的玉作伝統 | 麻・穀・玉作・鏡作という忌部技術ネットワークの出雲ノード |
2. 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 玉作湯神社(玉作湯社) |
| 所在地 | 島根県松江市玉湯町玉造508 |
| 創建 | 不詳(『出雲国風土記』所載の古社) |
| 主祭神 | 櫛明玉命・大国主命(大己貴神)(大名持神)・少彦名命 |
| 配祀 | 五十猛神 |
| 延喜式表記 | 出雲国 意宇郡 玉作湯神社/同社坐韓国伊太氐神社 |
| 社格 | 小/旧県社 |
| 位置付け | 玉造温泉街の奥、花仙山の麓の玉作中心地 |
3. 祭神と社伝
主祭神 櫛明玉命(くしあかるたまのみこと)は、玉造部(玉作部)の祖神。天岩戸隠れの際に 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま=三種の神器の勾玉) を作った神で、天孫降臨で邇邇芸命に従った五伴緒の一人とされる。当地の玉作部がその祖神として奉斎したと伝える。
これに 大名持神(大国主命(大己貴神))・少彦名命 を併せ祀る。両神は『伊予国風土記』逸文の道後温泉伝承(大名持・少彦名が湯を通わせて病を癒した)との関係で、湯(温泉)の神 として勧請されたとする説がある。玉造温泉の守護神という性格を帯びる。
配祀の 五十猛神(いそたける)は、『延喜式』神名帳の「同社坐韓国伊太氐神社(からくにいたてのかみのやしろ)」の祭神で、当社に合祀された。
4. 歴史
- 弥生末期〜古墳:花仙山一帯で碧玉・瑪瑙・水晶の勾玉・管玉生産が盛行(国史跡「出雲玉作跡」)。
- 奈良:『出雲国風土記』(733頃)意宇郡条に「玉作湯社」。鎮座地は風土記の 忌部神戸 に比定される。
- 平安:『延喜式』神名帳に「玉作湯神社」「同社坐韓国伊太氐神社」を載せる。
- 中世以降:玉造温泉の鎮守として崇敬を集める。
- 近代:旧県社。
- 現在:玉造温泉街の奥に鎮座。「願い石」「叶い石」のパワースポットとして知られる。
5. 玉作部と「忌部神戸」
『出雲国風土記』において当社の鎮座地は 忌部神戸(いんべのかんべ) に比定される。神戸(かんべ)とは特定の神社・神に租税や労役を奉仕する民戸で、「忌部神戸」は忌部(斎部)氏の管掌下にあった集団を指す。
通説は、当社を 忌部氏の管掌のもとで玉類製造にあたった玉作部により奉斎された社 と推測する。すなわち、花仙山の良質な碧玉・瑪瑙を素材とする勾玉・管玉の生産が、祭祀具(玉)の供給という忌部の職掌と結びついていたとみる。国史跡「出雲玉作跡」の濃密な玉作遺跡群は、その物質的裏付けである。
「願い石」は境内にある直径約60cmの自然石(真玉=勾玉の象徴とされる)で、社務所で授与される天然石「叶い石」を願い石に触れさせて祈願する習俗が、玉の聖地としての性格を今に伝える。
6. 阿波説における意義
6-1. 出雲玉作忌部の祖神を祀る社
阿波説では、主祭神 櫛明玉命 を 忌部総祖 天太玉命 に従う五伴緒(五部神)の一柱「出雲玉作忌部の祖」 と位置づける。『古語拾遺』は天太玉命に従う諸氏として阿波忌部・讃岐忌部・紀伊忌部・出雲(玉作)忌部らを挙げ、忌部氏 のノートに整理された系譜では、櫛明玉命は 阿波忌部祖 天日鷲命 の兄弟神格 にあたる。当社はその祭祀の物的拠点とみなされる。
6-2. 麻・穀・玉作・鏡作の技術ネットワーク
忌部氏 は「麻布・木綿(ゆう)・玉・鏡といった神祇祭祀の物質的基盤を生産・供給する技術氏族」であり、阿波説はこれらの技術が阿波から各地へ展開したとみる。玉作湯神社は、その 玉作部門の出雲ノード。阿波の 辰砂(朱) や麻の生産と並ぶ、忌部の物質生産ネットワークの一環として読まれる。
6-3. 大国主・少彦名祭祀の延長
配祀(湯の神)の大名持神(大国主命(大己貴神))・少彦名命 は、出雲を代表する国作りの神。阿波説は出雲系祭祀を阿波の祭祀圏と連続させて捉えるため、当社の湯の神勧請も、出雲・阿波を結ぶ大国主・少彦名祭祀の延長線上に位置づけられる。
7. 関連神社・関連氏族
出雲の忌部・阿波接続群
関連神格
- 櫛明玉命 — 主祭神(出雲玉作忌部の祖)
- 天太玉命 — 忌部総祖
- 天日鷲命:天岩戸の功績と「鷲」の由来 — 阿波忌部祖(櫛明玉命の兄弟神格)
- 大国主命(大己貴神)・少彦名命 — 湯の神(配祀)
- 五十猛神 — 配祀(韓国伊太氐神社)
関連氏族
8. 現地情報
- 住所:島根県松江市玉湯町玉造508
- アクセス:玉造温泉駅から玉造温泉街を経て奥へ。温泉街の最奥に鎮座。
- 見どころ:「願い石」(境内の直径約60cmの自然石)と「叶い石」(社務所授与の天然石)のパワースポット。花仙山の玉作遺跡(国史跡「出雲玉作跡」)が周辺に分布。
9. 参照ブログ・Web資料
Web資料
- 『出雲国風土記』意宇郡「玉作湯社」「忌部神戸」
- 玄松子/Shrine-heritager「玉作湯神社」
- 島根県・松江観光協会「玉造温泉・玉作湯神社」
- 国史跡「出雲玉作跡」解説
10. 史料
一次史料
- 『出雲国風土記』(733頃)(意宇郡 玉作湯社/忌部神戸)
- 『延喜式』神名帳(出雲国意宇郡 玉作湯神社/同社坐韓国伊太氐神社)
- 『古語拾遺』(天太玉命に従う出雲玉作の祖=櫛明玉命)
神社縁起・社伝
- 玉作湯神社社伝(願い石・叶い石の縁起)
- 『伊予国風土記』逸文(道後温泉伝承=大名持・少彦名の湯神性格)
11. 関連ノート(Vault内)
関連神格・系譜
出雲の阿波接続
阿波説総合
12. 留保(中立的併記)
注意
- 主祭神(櫛明玉命)・社名・忌部神戸への比定は『出雲国風土記』『延喜式』に基づく一次史料。
- 「玉作部が忌部の管掌下で当社を奉斎した」は通説的推測であり、忌部と玉作部の管掌関係の実態・年代には不確実性がある。
- 大名持神・少彦名神の「湯の神」勧請(道後温泉伝承との関係)は社伝・伝承レベルの説。
- 阿波接続は阿波説的仮説。玉作湯神社/櫛明玉命自体が阿波起源を伝えるわけではなく、接続は「忌部五伴緒という同族ネットワークの一柱」という枠組みを介した間接的なもの。阿波が玉造温泉を直接開発した史料はない。
- 櫛明玉命と玉祖命(周防玉祖神社系)との同一視には議論がある(櫛明玉命 §留保参照)。
- 本ノートの evidence_type は “primary_source_based”(祭神・風土記・延喜式)/阿波接続は仮説、confidence は 3。
※本稿は櫛明玉命(出雲玉作忌部の祖)を祀る出雲の式内社として、忌部氏 の玉作部門の本拠という観点から位置付けられる。出雲の阿波接続群として阿須伎神社・都我利神社 と連なる。
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