西照神社(にしてるじんじゃ)
要旨
西照神社(にしてるじんじゃ) は、徳島県美馬市脇町、阿讃山脈の大滝山(標高946m)山頂に鎮座する古社。祭神は三貴神の一柱 月読尊 と 宗像三女神(田寸津姫命ら)。延喜式神名帳 阿波国美馬郡の式内社 田寸神社(たわのじんじゃ)の論社 の一つで、明治の神仏分離までは 西照大権現 と称した。神社由緒は、月読尊が宗像三神の部族を率いて伊予から阿波・大滝山に移り、瀬戸内・難波・大和の動向を監視したと伝え、阿波説はこれを古代の軍事・祭祀の要衝=倭の高安城の比定地とみる。空海が大滝山で遠祖の神を祀ったと伝える大滝寺の縁起も残る。高安城比定の詳論は 高安城と月読尊・宗像三女神 に委ね、本ノートは社の基本情報・祭神・由緒を扱う。
1. 命題の構造
| 観点 | 通説 | 阿波説(社伝・在地比定) |
|---|---|---|
| 西照神社の性格 | 大滝山頂の月読尊・宗像三女神を祀る古社 | 同左。海人族の進出・瀬戸内監視の祭祀拠点とみる |
| 式内 田寸神社 | 阿波国美馬郡の式内小社(論社複数) | 田寸=田寸津姫命に通じ、宗像三女神祭祀と整合 |
| 大滝山頂 | 阿讃国境の霊山 | 天智6年(667)の 倭の高安城 の比定地 |
※阿波説欄は社伝・在地比定であり、考古学的実証や延喜式が明記する事実ではない(→留保)。
2. 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 西照神社(にしてるじんじゃ)/旧称 西照大権現 |
| 所在地 | 徳島県美馬市脇町西大谷672(大滝山頂、標高946m) |
| 創建 | 不詳 |
| 主祭神 | 月読尊(つくよみのみこと) |
| 配祀 | 宗像三女神(田寸津姫命〔湍津姫〕・田心姫・市杵島姫) |
| 延喜式表記 | 田寸神社(たわのじんじゃ)の論社(阿波国美馬郡、小社) |
| 社格 | 式内 田寸神社の論社(明治社格は伝わらない) |
| 位置付け | 大滝山頂に月読尊・宗像三女神を祀る古社。式内 田寸神社の論社で、阿波説は高安城の比定地とする |
3. 祭神と社伝
3-1. 月読尊と宗像三女神
- 月読尊:伊邪那岐尊から生まれた三貴神の一柱で、夜之食国を統べる神(月読命:夜之食国と伊予比定)。記紀での事績は乏しく「静寂の神」と称される。
- 宗像三女神:海上交通の神。とくに 田寸津姫命(湍津姫) は、式内社名「田寸(タワ)神社」と通じる。
3-2. 神社由緒(月読尊の伊予→阿波移動)
境内の由緒は、記紀の伊邪那岐尊の禊(阿波峡原)に続けて、独自の伝承を記す:
月読尊は夜の食国(九州全域、なお四国の嶋)を統括し、東の大和・紀伊の動向を看視せよと委任された。そこで月読尊は航海の神 田寸津姫命すなわち宗像の三神の部族を率いて伊予から阿波の国に移り、大滝山の頂の展望のきく所に櫓を設け、瀬戸内海・難波および大和の動向を監視させた(西照神社由緒の大意)。
→ 月読尊が宗像三女神(海人族)を率いて伊予から阿波へ入った、という由緒は、阿波説では 九州系海人族の瀬戸内進出 の記憶とみる読みもある(ただし出典ブログ筆者自身が「あくまで妄想」と断る考察。→留保)。
3-3. 西照大権現と空海(大滝寺の縁起)
- 明治の神仏分離までは 西照大権現 と称し、本地垂迹に基づく権現号であった(awa-otoko 2014 が引く社伝)。
- 空海が大滝山に登った際、遠祖 天忍日命(大伴氏の祖神)の使いという翁が現れ、頂上の古塚がその神跡だと教えられ、草庵(大滝寺)を構えて祀った——という縁起が伝わる。すなわち 西照大権現=天忍日命 とする伝承である。
- ただしこれは権現号・縁起における本地/垂迹の同定であって、現在の祭神(月読尊・宗像三女神)とは別層の伝承である(→留保)。
4. 大滝山と高安城
- 大滝山頂は四方の展望が開け、北は讃岐の屋島、南は吉野川流域を見通す。『阿波志』も「岩倉山の西北に在り…北は讃岐を臨み、遥かに播備を見る」と記す。
- 阿波説は、天智6年(667)に築かれた 倭の高安城(たかやすのき) をこの大滝山に比定し、瀬戸内からの進入監視の烽(とぶひ)拠点とみる。脇町=「倭城(わき)」地名起源説、北麓「塩江」と天智紀の高安城への塩米運搬記事を傍証とする。
- 高安城比定の詳論は 高安城と月読尊・宗像三女神 を参照。
5. 阿波説における意義
- 月読尊祭祀の阿波内拠点:記紀で事績の乏しい月読尊を主祭神とする古社が阿讃国境の霊山に現存することは、月読命の伊予比定(月読命:夜之食国と伊予比定)と接続する論点となる。
- 海人族(宗像三女神)の祭祀軸:田寸津姫命をはじめ宗像三女神を祀ることは、阿波の海人族・海洋祭祀の論点(事代主命と海人族:海洋王権の象徴としてのエビス信仰)に連なる。
- 高安城の阿波比定:大滝山=倭の高安城とする説は、天智朝の宮都を阿波に置く阿波説の一論点(詳細は子ノート)。
6. 現地情報
- 所在地:徳島県美馬市脇町西大谷672(大滝山頂)
- アクセス:脇町中心部から大滝山への山道を車で約30分
- 主要祭事:厄除太々神楽祭(神楽が伝わる)
7. 参照ブログ・Web資料
- 「静寂の神、月読尊を祀る『西照神社』(美馬市脇町)」(妄想の阿波古代史 kohun-jinjya.blog, 2022)https://kohun-jinjya.blog/nishiterujinjya/
- 阿波の玄関を監視する高安城(西照神社)(awa-otoko 2014-11-18)
- 西照神社_厄除太々神楽祭(awanonoraneko 2007-04-22)
8. 史料
- 『延喜式』神名帳 阿波国美馬郡「田寸神社」(西照神社はその論社)
- 『阿波志』(大滝山・大瀧寺の記載)
- 西照神社 社伝・由緒書
9. 関連ノート(Vault内)
- 高安城と月読尊・宗像三女神 — 高安城比定の専門論考(本ノートの子ノート)
- 月読命:夜之食国と伊予比定 — 主祭神 月読尊の神格
- 事代主命と海人族:海洋王権の象徴としてのエビス信仰 — 宗像三女神・海人族の論点
- 阿波国の神社一覧(式外)
10. 留保(中立的併記)
注意
- 西照神社は延喜式に「西照神社」として載るのではなく、式内 田寸神社(美馬郡)の 論社 の一つである。式内社そのものではない。
- 月読尊が宗像三女神を率いて伊予から阿波へ移ったとする由緒は、当社独自の社伝であり、記紀本文が記す事実ではない。これを「海人族の瀬戸内進出」と読むのは出典ブログ筆者自身が「あくまで妄想」と断る考察である。
- 西照大権現=天忍日命 は神仏習合期の権現号・縁起における本地/垂迹の同定で、現在の祭神(月読尊・宗像三女神)とは層を分けて読む必要がある。天忍日命は祭神としては祀られていない。
- 大滝山を 倭の高安城 の比定地とするのは阿波説固有の在地比定で、高安城の所在は通説では大和(生駒山系、奈良県)に置かれる(詳細・留保は 高安城と月読尊・宗像三女神)。
- 本ノートの evidence_type は “shrine_origin”(社伝・由緒・地誌が主たる典拠)、confidence は 3。
※本稿は西照神社の基本情報・祭神・由緒を扱う。高安城比定の詳論は高安城と月読尊・宗像三女神に委ねる。
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