宇奈為神社(うないじんじゃ)

要旨

宇奈為神社は徳島県那賀郡那賀町木頭字内ノ瀬に鎮座する延喜式内社(阿波国那賀郡、小社)。那賀川最上流の山間部に位置し、海神族(綿津見系)の祖神祭祀を山中で行うという、阿波の海人族祭祀の特異な配置を示す。主祭神は豊玉彦命・豊玉姫命・玉依姫命の海神族三神並祀で、貞観十五年(873年)九月二十七日に神階「従五位上」を授けられた由緒ある式内社(『日本三代実録』)であり、那賀郡における海神族祭祀の最深部拠点とされる。


1. 命題の構造

観点通説阿波説
社名の由来「宇奈為」は地名由来(不詳)『阿波志』が「海居(うない)」と読み解き、海人族(綿津見・凡海連・安曇宿禰)の山地祭祀を示すと解釈
山間立地の意味那賀川上流の一地方鎮守海人族が那賀川を遡って山中に祭祀拠点を建てた、長国(南阿波)の海人族による山地資源(木材・水銀朱・狩猟物)統御の祭祀的記憶
玉依姫祭祀の位置づけ記紀神話上の神武天皇の母神武東征出立地=阿波とする阿波説の中で、神武の母祭祀拠点という位置付け
水系上の意義那賀川最上流の総鎮守(中世「宇奈為十二社」)若杉山辰砂採掘遺跡よりさらに上流に位置し、辰砂供給ルートの源流祭祀(水銀朱→海運→大陸交易という長国造の経済ネットワークの祭祀的端緒)とみなす

2. 基本情報

項目内容
社名宇奈為神社
所在地徳島県那賀郡那賀町木頭字内ノ瀬56
創建不詳(延喜式神名帳〈927年〉以前に成立、貞観15年〈873年〉時点で神階を有する)
主祭神豊玉彦命・豊玉姫命・玉依姫命(海神族三神並祀)
配祀不詳
延喜式表記阿波国 那賀郡 宇奈為神社(小)
社格小社
位置付け那賀川最上流域における海神族(綿津見系)祭祀の最深部拠点

3. 祭神と社伝

項目内容
主祭神豊玉彦命・豊玉姫命・玉依姫命
神格綿津見大神=海神族の総帥、豊玉姫=山幸彦の妻、玉依姫=神武天皇の母
社名「宇奈為=海居」(『阿波志』)
神階従五位上(貞観15年=873年9月27日)

『阿波志』は新撰姓氏録を引用して、本社祭神を 「凡海連(おおしあまのむらじ)・安曇宿禰の祖、綿積命(綿津見大神)六世孫小栲梨命の児」 と関連付ける。安曇族・凡海連の海洋ネットワーク の山地拠点としての性格。


4. 歴史

  • 延喜式神名帳(927年):阿波国那賀郡「宇奈為神社(小)」一座。
  • 貞観15年(873年):『日本三代実録』に 「宇奈根神」に従五位上 を授ける記載。本社の延喜式以前の高位神階。
  • 中世:「宇奈為十二社」「奈伊瀬十二社」と称し、那賀川最上流の総鎮守。
  • 江戸期:『阿波志』に「木頭村奈伊瀬十二社これか」と記載。
  • 近代:村社、現社地(木頭内ノ瀬)に固定。

5. 国史見在社としての位置付け

本社は『三代実録』に神名が見える 国史見在社(広義) である(延喜式神名帳と六国史の双方に名が見える神社)。


6. 阿波説における意義

6-1. 「海居」=海人族の山地拠点

阿波説では、本社の山間立地を 「海人族が那賀川を遡って山中に祭祀拠点を建てた」 と解釈する。これは 長国(南阿波)の海人族が、那賀川水運を通じて山地資源(木材・水銀朱・狩猟物)を統御 したことの祭祀的記憶。

6-2. 神武天皇の母・玉依姫祭祀

本社の玉依姫祭祀は、神武東征出立地=阿波 とする阿波説の中で 神武の母祭祀拠点 という位置付けを持つ。

6-3. 若杉山辰砂遺跡上流の祭祀

本社は 若杉山辰砂採掘遺跡 からさらに那賀川を遡った最上流部に位置し、辰砂供給ルートの源流祭祀 とみなされる。水銀朱→海運→大陸交易 という長国造の経済ネットワークの祭祀的端緒。

6-4. 阿波海人族三氏(安曇・海部・那賀)の連結点

『阿波志』が引用する 凡海連・安曇宿禰の祖神祭祀 という性格は、阿波海人族の 安曇・海部・那賀(長) 三氏のネットワーク(阿波海人族:海洋王権を支えた安曇・海部・那賀のネットワーク)の核祭祀。


7. 関連神社・関連氏族


8. 現地情報

  • 所在地:徳島県那賀郡那賀町木頭字内ノ瀬56
  • アクセス:那賀町木頭、国道193号・195号で徳島市から約2時間
  • 境内特徴:
    • 那賀川最上流の渓谷沿い
    • 山高く円く、川・桜・藤・竹栢が生い茂る景観(『阿波志』)
    • 例祭は晩秋

9. 参照ブログ・Web資料


10. 史料

阿波志(江戸期地誌)

江戸後期の地誌『阿波志』(藤原憲輯)における本社の記載:

式小祀。木頭村奈伊瀨十二社これか。山高く円く、川・桜・藤・竹栢・竹来阪道に生ず。「宇奈爲」=「海居」の意。神は綿積命(わたつみ)か。新撰姓氏録に「凡海連(おおしあまのむらじ)・安曇宿禰の祖、綿積命六世孫小栲梨命の児」と関連付け。貞観十五年(873)九月二十七日、宇奈根神に従五位上を授くと記す。

→ 全文:阿波志 現代語訳(那賀郡 11-3 祠廟の節)

  • 『日本三代実録』貞観15年9月27日条
  • 『阿波志』那賀郡11-3祠廟の節
  • 新撰姓氏録 凡海連・安曇宿禰条

11. 関連ノート(Vault内)


12. 留保(中立的併記)

注意

  • 祭神三神(豊玉彦・豊玉姫・玉依姫)の比定は近世以降の整理で、古代の祭神原型は 「ウナイ神」 一柱の可能性。
  • 「海居(うない)」の語源解釈は『阿波志』編者の解釈で、別の語源(「畝居」「兎名居」等)も提示されうる。
  • 「神武天皇の母祭祀拠点」「辰砂供給源流祭祀」は阿波説の枠組みでの位置付けで、文献上の直接の証拠はない。