遠江国の式内社一覧
遠江国(現在の静岡県西部)の延喜式神名帳に記載された62座(大社2座・小社60座)/13郡 の式内社リスト。 東隣の駿河国(22座)と比較して座数が多く、周智郡・佐野郡を中心に阿波忌部氏の東遷ルート上の重要拠点が集中する点が阿波説の核心的注目点である。
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🏛 名神大社(2座)
| 神社名 | 比定社・論社 | 郡 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 角避比古神社(つのさくひこじんじゃ) | 不詳(流失伝承) | 浜名郡 | 浜名湖湖口の水神。明応7年(1498)の大津波で社地流失と伝わる。 |
| 小國神社(おくにじんじゃ) | 小國神社(小国神社) | 周智郡 | 遠江国一宮。大己貴命を祀る。 |
※ 名神大社の数え方には史料による幅があり、本文では遠江国一宮の小國神社(本来は小社扱いだが事実上の最高社格)と、もう一座の名神級として角避比古神社をあわせ示す。
🗺 郡別一覧
浜名郡(3座)
- 角避比古神社(名神大/実態不詳)
- 英多神社(あがたじんじゃ)
- 猪鼻湖神社(いのはなこじんじゃ)
敷智郡(6座)
- 大神神社(みわじんじゃ)― 大三輪の系譜
- 息神社(おきじんじゃ)
- 村櫛神社(むらくしじんじゃ)
- 賀久留神社(かくるじんじゃ)
- 津毛利神社(つもりじんじゃ)
- 許部神社(こべじんじゃ)
引佐郡(5座)
- 渭伊神社(いいじんじゃ)― 天白磐座遺跡を擁し、巨石祭祀の聖地
- 井伊谷宮(論社)
- 大原神社(おおはらじんじゃ)
- 阿波説の視点: 「大原」地名は阿波忌部の東遷ルート上で頻出する地名群(千葉県・茨城県の大原神社群)と対応する。阿波忌部の中継ネットワークを示す可能性。
- 岩室神社
- 都田神社
麁玉郡(2座)
- 赤渕神社
- 岩水寺奥津磐座(論社)
長上郡(2座)
- 物部神社(もののべじんじゃ)― 物部氏遠江分流の祭祀拠点
- 椎ヶ脇神社
豊田郡(5座)
- 服織神社(はとりじんじゃ)
- 阿波説の視点: 「服織(はとり)」は織物部の遺称。阿波忌部系の機織集団・倭文部との関連が想起される。
- 若倭神社
- 山名神社
- 天龍二俣神社
- 赤蓼神社
山名郡(5座)
- 己等乃麻知神社(論社:他に事任八幡宮)
- 矢奈比賣神社(やなひめじんじゃ)― 見付天神。市場・流通の女神。
- 新池神社
- 府八幡宮(論社)
- 諸田神社
山香郡(1座)
- 大歳神社
周智郡(6座)— 阿波忌部の中核拠点
- 小國神社(おくにじんじゃ)― 遠江国一宮、名神大相当
- 己等乃麻知神社(事任八幡宮比定の最有力地)
- 阿波説の視点: 己等乃麻知比売命(ことのまちひめのみこと)は、阿波忌部の祖神玉主命の娘とされ、姉妹神天津羽羽命(=阿波比売命) との対構造をなす。事任八幡宮 / 祭神の系譜:父・玉主命と対の女神 参照。
- 岩裂神社
- 春日神社(論社)
- 山名神社(周智)
佐野郡(4座)— 阿波忌部の最重要拠点
- 阿波比売命神社(あわひめのみことじんじゃ)― 比定社:阿波々神社(粟ヶ岳山頂)
- 阿波説の視点: 静岡県内で最も明確に「阿波」の名を残す式内社。粟ヶ岳の名称は徳島県の旧国名「阿波/粟」に直結し、阿波忌部の東遷ルート上の上陸点・祭祀拠点であった可能性が極めて高い。阿波忌部氏の東遷と最重要拠点 参照。
- 己等乃麻知神社(論社:佐野郡側にも論社あり)
- 真草神社
- 天宮神社(あめのみやじんじゃ)― 宗像三女神を祀る、海神系祭祀
城飼郡(5座)
- 高松神社
- 西宮神社
- 塩井神社
- 若宮八幡宮
- 諏訪神社(論社)
蓁原郡(4座)
- 服織田神社(はとりだじんじゃ)
- 阿波説の視点: 周智・豊田の服織神社と並ぶ織物集団祭祀。阿波忌部系倭文部の駐留痕跡か。
- 片岡神社
- 大井神社
- 池宮神社
佐益郡(小郡群)
- 多米神社(ためじんじゃ)
- 阿波説の視点: 「多米(ため)」は穀物・米の意で、阿波忌部がもたらした穀物祭祀の地名と推定される。
- 櫻ヶ池神社(論社)
※郡区分は史料によって異同あり、上記は神名帳と『遠江國風土記伝』『大日本史』を総合した便宜分類。
💡 阿波説・東遷ルートの核心ポイント
1. 「阿波」を直接残す唯一の式内社:阿波比売命神社(阿波々神社)
粟ヶ岳山頂に鎮座し、阿波比売命(=大宜都比売命=天津羽羽命)を祀る。徳島県の阿波国一宮 上一宮大粟神社 の主祭神(大宜都比売命)と祭神が直結する。静岡県における阿波忌部東遷の物的痕跡として、最も明瞭な式内社。
2. 対の女神祭祀:阿波比売命と己等乃麻知比売命
両社の祭神は 忌部の神・玉主命の二人の娘(天津羽羽命と己等乃麻知比売命)であり、姉妹神による山と麓の対祭祀は阿波忌部が遠江に定着した際の祭祀システムである可能性が高い。祭神・阿波比売命と事任八幡宮との対構造 参照。
3. 服織・倭文の織物集団
豊田郡服織神社・蓁原郡服織田神社・駿河郡倭文神社は、阿波忌部祖神天日鷲命の系譜である機織集団(倭文部)の東遷痕跡を示唆する。
4. 大原神社・忌部地名
引佐郡大原神社は、千葉・茨城に展開する阿波忌部の「大原神社群」と地名・社名で対応する。黒潮ネットワーク上の中継点として注目される。
5. 東隣の駿河との比較
駿河国は22座と座数が少ないが、富士山本宮浅間大社・草薙神社・焼津神社などヤマトタケル東征伝承と密接に絡む。これに対し遠江国は 阿波忌部の祭祀色が濃く、純粋に阿波系の神名(阿波比売命・己等乃麻知比売命)を残す稀有な国 である。
🚢 東遷ルート上の遠江国の位置付け
阿波(鳴門・撫養)→紀伊→伊豆・遠江・駿河(中継)→ 房総(安房・上総)
遠江国は、阿波忌部の黒潮東遷ルートにおいて 房総到達直前の最重要中継地 として機能した可能性が高い。粟ヶ岳の祭祀拠点を残し、麻・穀・茶などの産業開拓(粟ヶ岳の「茶」の文字は現代まで続く名残)を行った後、伊豆を経て房総へ向かったというモデルが阿波説の標準解釈である。
阿波忌部の東遷:安房・上総開拓と黒潮ネットワーク / 千葉県の神社伝承(阿波説関連) 参照。
📚 参照
⚠️ 留保
座数・社格の細部については史料による異同があり、特に「角避比古神社」の名神大社扱いは諸説ある。各神社の祭神・由緒については通説と阿波説で解釈が異なるため、本ノートでは阿波説の視点を補注として記し、通説との区別を明示する。
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