和多都美豊玉比売神社(ワタツミトヨタマヒメノ)
要旨
和多都美豊玉比売神社は阿波国名方郡の式内社(小社・一座)。祭神は豊玉姫命(海神綿津見神の女、彦火火出見尊の妻、神武天皇の祖母)。比定論社は雨降神社(徳島市不動西町)、王子和多都美神社、王子神社の3社。『阿波志』は当地(和多村・井上郷、江戸期は「王子」と称した)を、神代紀に記される彦火火出見尊と豊玉姫の出会いの場面の舞台と明示しており、阿波説の核心命題「記紀神話の舞台=阿波国内」を江戸期地誌が公式に支持する数少ない記述となっている。元慶七年(883)従五位上の神階を受けた国史見在社でもある。
1. 命題の構造
| 観点 | 通説 | 阿波説 |
|---|---|---|
| 山幸彦・豊玉姫神話の舞台 | 記紀神話の舞台論は別に存在(阿波内地比定は通説ではない) | 『阿波志』の「井上に一湯津杜樹あり」記述に基づき、当地(井上郷=現・王子地区)を出会いの場と比定 |
| 3比定論社(雨降神社/王子和多都美神社/王子神社)の関係 | 中世以降の遷祠・分祀により複雑化、本来の鎮座地の確定は困難 | 海神族祭祀のトライアングルの一部として一体的に評価 |
| 同郡内の豊玉姫祭祀の重複(本社と天石門別豊玉比売神社) | 後世の分祀・誤伝の可能性 | 海神族祭祀の濃度の現れ、神武天皇出生前の天孫族×海神族婚姻譚の舞台の物的痕跡 |
2. 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | 和多都美豊玉比売神社 |
| 所在地 | 徳島県徳島市不動西町ほか |
| 創建 | 不詳 |
| 主祭神 | 豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト) |
| 配祀 | ― |
| 延喜式表記 | 阿波国 名方郡 和多都美豊玉比売神社 |
| 社格 | 小(座数1座) |
| 位置付け | 比定論社:雨降神社(徳島市不動西町)/王子和多都美神社/王子神社。元慶七年(883)従五位上の神階を受けた国史見在社 |
3. 祭神と社伝
豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト)
- 海神綿津見神(ワタツミ)の女。彦火火出見尊(山幸彦)の妻、鸕鶿草葺不合尊の母、神武天皇の祖母。
- 「ワタツミ」は本来海神族の総称神格で、「ワタツミ+トヨタマヒメ」は「海神族の姫神」の意。
- 海宮(綿津見宮)の女神として、海と陸の境界、潮の満ち干、産屋(鵜葺草葺不合の出産)の伝承を担う。
4. 歴史
- 延喜式神名帳(927年)に「阿波国 名方郡 和多都美豊玉比売神社」として記載された式内社。
- 元慶七年(883)従五位上の神階授与記録(『阿波志』『三代実録』)。
- 神階授与の歴史により、阿波国内でも有力な海神族祭祀社の一つ。
- 同じ名方郡内に**天石門別豊玉比売神社**(豊玉姫を祀る別社)も存在し、豊玉姫祭祀が複数社に分立している点が阿波の特徴。
5. 比定論社
『阿波志』(江戸後期地誌)は次のように記す:
和多都美豐玉比賣祠 延喜式小祀。和多村(井上郷)、今「王子」と称す。豫章数株(大4-5囲)。神代紀に「井上に一湯津杜樹あり、彦火火出見尊この樹下に徙倚彷徨。海神の女豊玉姫を娶り、海宮に三年留住」と。元慶七年(883)従五位上。
→ 江戸期の比定地は和多村(井上郷)。当時は「王子」と称された。神代紀の彦火火出見尊(山幸彦)と豊玉姫の出会いの場面(「井上に一湯津杜樹あり…」)が当地で起こったという解釈を『阿波志』は明示している。
→ 全文:阿波志_現代語訳(名東郡 8-3 主要祠廟の節)
雨降神社(徳島市不動西町)
- 現比定地候補。「雨降」の名は水神・海神祭祀の名残を示唆。
王子和多都美神社(徳島市不動東町)
- 王子和多都美神社を参照。論社元社関係。『阿波志』が「王子と称す」と記す江戸期呼称の直接の継承社。
王子神社
- 同様に「王子」の名称を残す比定論社。
6. 阿波説における意義
6-1. 山幸彦・豊玉姫神話の阿波内地比定
『阿波志』が神代紀の「井上に一湯津杜樹あり…」と当地(井上郷)を直接結びつけている点は、阿波説の核心命題「記紀神話の舞台=阿波国内」を江戸期地誌が公式に支持する数少ない記述。
- 海宮(綿津見宮)=阿波の海岸〜井上郷の聖樹下
- 三年留住譚 → 阿波における山幸彦の婚姻譚
- 鵜葺草葺不合尊の誕生地(産屋)→ 天石門別豊玉比売神社との連携で阿波内地比定が完結する
6-2. 神武天皇の祖父母の出会いの地
彦火火出見尊(神武の祖父)×豊玉姫(神武の祖母)の出会いの場として、当社は神武東征以前の天孫族=海神族連合の発祥地という位置づけを得る。
6-3. 海神族祭祀網
王子和多都美神社・天石門別豊玉比売神社とともに名方郡における海神族(綿津見系)祭祀のトライアングルを構成する。
6-4. 国史見在社としての位置付け
本社は『三代実録』に神名が見える**国史見在社(広義)**である(延喜式神名帳と六国史の双方に名が見える神社)。元慶七年(883)の従五位上叙位は、阿波の国家祭祀的位置付けを示す記録として重視される。
7. 関連神社・関連氏族
- 王子和多都美神社(研究ポータル:祭神・氏族・専門論考)
- 天石門別豊玉比売神社(豊玉姫祭祀の対社)
9. 参照ブログ・Web資料
- 玄武神社サイト:https://genbu.net/data/awa2/watatumi_title.htm
- kohun-jinjyaブログ:https://kohun-jinjya.blog/wadatumitoyotamahime-jinjya/
10. 史料
一次史料
- 『延喜式』神名帳
- 『三代実録』(元慶七年〈883〉従五位上の叙位記録)
神社縁起・社伝
- 『阿波志』(名東郡 8-3 主要祠廟の節。全文:阿波志_現代語訳)
11. 関連ノート(Vault内)
- 名方郡_12座内訳(同じ郡の延喜式座数内訳)
- 🗺 国史見在社 MOC — 六国史所載神社の総合索引
- 邦国之大典:平安時代の公式文書が語る神社の格 — 阿波の国家祭祀的位置付けを示す太政官符の精読
- ⛩ 阿波の核心神社ハブ
- 📚 理論基盤・総論_目次
- 🪨 阿波説の根幹
12. 留保(中立的併記)
注意
- 「井上に一湯津杜樹」の阿波内地比定は『阿波志』の比定であり、当時の地誌的解釈である。通説(記紀神話の舞台論)は別に存在することに注意。
- 3つの比定論社(雨降・王子和多都美・王子)の関係は中世以降の遷祠・分祀によって複雑化しており、本来の鎮座地の確定は困難。
- 豊玉姫祭祀が同郡内に複数社(本社・天石門別豊玉比売神社)存在する事情については、海神族祭祀の濃度の現れと見るか、後世の分祀・誤伝と見るかで解釈が分かれる。
- 本ノートのevidence_typeは “primary_source_based”、confidenceは3。
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