渡会(度会)氏(わたらいうじ)

要旨

渡会(度会)氏は、伊勢神宮外宮(豊受大神宮)の禰宜を世襲した神主家。その系図『豊受太神宮禰宜補任次第』は 天牟羅雲命(あめのむらくものみこと) を上祖(一名 天二上命、豊受大神宮禰宜)とし、その後裔 天日別命 が伊勢・伊賀国造の祖、さらに 大若子命(一名 大幡主命) が外宮禰宜となる系譜を伝える。通説では度会氏は伊勢国造に連なる神別氏族(中臣氏系とする見方もある)。一方、阿波説の核心は、上祖 天牟羅雲命を阿波国式内社・天村雲神社(忌部神社摂社)の祭神と同神とし、後裔 天日別命を 阿波忌部の祖・天日鷲命と同神 とみなす点にある。すなわち、伊勢外宮の祠官家もまた阿波忌部の祖神を上祖に戴く、という東遷論的接続を描く。本ノートは、度会氏系図の系譜実態と、阿波説による同神接続の両面を扱う。


1. 命題の構造

観点通説阿波説
度会氏の出自伊勢国造・神別氏族。系譜を中臣氏系とする見方もある阿波忌部の祖 天日鷲命(=天日別命)の後裔
上祖 天牟羅雲命度会神主の祖。饒速日命の天孫降臨32神の一阿波国式内社 天村雲神社(忌部神社摂社)の祭神と同神
天日別命伊勢平定の神・伊勢/伊賀国造の祖阿波忌部祖神 天日鷲命の異名
外宮祭祀の起源豊受大神の鎮座に伴う神主家の成立阿波忌部の麻植・祭祀技術の東国展開

2. 基本情報

項目内容
氏族名渡会氏(度会氏/古くは磯部氏)
氏族区分伊勢神宮外宮(豊受大神宮)禰宜を世襲する神主家
本拠伊勢国 度会郡
上祖天牟羅雲命(一名 天二上命・後小橋命/豊受大神宮禰宜)
主要人物天日別命(伊勢・伊賀国造の祖)、彦国見賀岐建與束命(度会国御神社祭神)、大若子命(一名 大幡主命/外宮禰宜)
主要史料『豊受太神宮禰宜補任次第』『渡会氏系図』『神宮雑例集』
関連神社伊勢神宮外宮(豊受大神宮)、度会国御神社(下宮摂社)、伊雑宮

3. 系譜(豊受太神宮禰宜補任次第)

『豊受太神宮禰宜補任次第』(群書類従所収)および『渡会氏系図』が伝える世代系譜の要点:

世孫神名注記
―国常立尊『渡会氏系図』では天御中主尊
6世孫神魂命(神皇産霊尊)
7世孫櫛真乳魂命
8世孫天曽己多智命『新撰姓氏録』の「天底立命」に比定
11世孫天御雲命
12世孫天牟羅雲命一名 天二上命・後小橋命/豊受大神宮禰宜
13世孫天波与命
14世孫天日別命伊勢津彦を平定、伊勢・伊賀国造の祖
15世孫彦国見賀岐建與束命度会国御神社祭神/伊勢国造・度会神主の祖
19世孫大若子命一名 大幡主命/豊受大神宮禰宜

『神宮雑例集』は「天牟羅雲命、国常立尊十二世孫、度会遠祖など見ゆ。その孫 天日別命(天日鷲命)は神武朝 伊勢国造となれり」と記す。


4. 歴史

外宮禰宜家としての度会氏

度会氏は伊勢神宮外宮(豊受大神宮)の禰宜を世襲した神主家。古くは磯部氏を称したとされ、外宮祠官として伊勢神道(度会神道)の中心を担った。中世以降、内宮の荒木田氏と並ぶ伊勢神宮二大祠官家として知られる。

系譜の起点と上祖

系図は天牟羅雲命を上祖(実質的な氏祖)とする。天牟羅雲命は饒速日命の天孫降臨に従った32神の一とされ、「度会神主の祖」と位置づけられる。系譜末尾の記載によれば、度会氏系図の伝来には「丹波宿祢度会神主」の関与が見える。


5. 同神説・系譜論点

5-1. 天牟羅雲命=阿波・天村雲神社の祭神

阿波説の起点は、上祖 天牟羅雲命を阿波国の式内社 天村雲神社(忌部神社摂社・吉野川市山川町)の祭神と同神とみなす点にある。『豊受皇太神御鎮座本紀』に「天村雲命 伊勢大神主上祖也。神皇産霊神六世之孫也。阿波國麻植郡座 忌部神社 天村雲神社二座 是也」とあり、外宮大神主(度会氏)の上祖 天村雲命のルーツが阿波の忌部神社・天村雲神社にあると明記される、と読む。

→ awanonoraneko_03_氏族_忌部海人#2009-05-27-式内社(天村雲神伊自波夜比賣神社)比定①_天村雲神社_吉野川市山川町

5-2. 天日別命=天日鷲命

系譜14世孫の天日別命を、阿波忌部の祖 天日鷲命 と同神とみなす。これにより度会氏は阿波忌部祖神の後裔となる。詳細な論点(一次史料・異名群)は伊賀国造ノートに整理。

→ 伊賀国造:天日別命の後裔と多賀連、天日鷲命:天岩戸の功績と「鷲」の由来

5-3. 大若子命(大幡主命)と伊雑宮

19世孫 大若子命(一名 大幡主命)は外宮禰宜。伊雑宮『御鎮座本縁』では祭神「玉柱屋姫命」を「天叢雲命の裔、天日別命の子」とし、天村雲命の血脈が確認される。阿波説は、外宮(度会氏)から伊雑宮に至る祭祀系譜に、阿波忌部〜天村雲命〜天日別命の連続を読む。


6. 阿波説における意義

6-1. 伊勢外宮祭祀の阿波起源

外宮祠官 度会氏の上祖 天村雲命を阿波の忌部神社摂社祭神に結ぶことで、伊勢神宮外宮の祭祀そのものが阿波忌部に源流をもつ、とする立場。阿波が「元伊勢」「祭祀の本源地」とする阿波説の根幹論と接続する。

→ 阿波説の根幹

6-2. 阿波忌部の東遷ネットワークの結節点

度会氏は、阿波忌部の祖神(天日鷲命=天日別命)を始祖とする伊勢・伊賀国造と一連の系譜にあり、伊勢・伊賀方面における阿波忌部の東遷ネットワークの結節点として位置づけられる。

→ 阿波忌部の東遷:安房・上総開拓と黒潮ネットワーク、伊賀国造:天日別命の後裔と多賀連

6-3. 阿波の伊勢神社・伊勢信仰の痕跡

阿波(阿波町・善入寺島ほか)に伊勢神社が存在し、その神官系譜が天日鷲命を祖とする血統とされる点が、度会氏=阿波忌部系説の傍証として引かれる。


7. 関連神社・関連氏族

関連神社

  • 伊勢神宮外宮(豊受大神宮)— 度会氏の奉斎
  • 度会国御神社(外宮下宮摂社)— 彦国見賀岐建與束命を祀る
  • 伊雑宮 — 大若子命・玉柱屋姫命
  • 天村雲神社(阿波国麻植郡・忌部神社摂社)— 上祖 天村雲命

関連神格

関連氏族


8. 現地情報

  • 伊勢神宮外宮(豊受大神宮):三重県伊勢市豊川町。度会氏が禰宜を世襲。
  • 度会国御神社:外宮の摂社。祭神 彦国見賀岐建與束命(伊勢国造・度会神主の祖)。

9. 参照ブログ・Web資料

kohun-jinjya_blog系

  • 2026-02-15_【古代史資料倉庫】豊受太神宮禰宜補任次第と渡会氏系図
  • 2023-02-18_【阿波の神社を行く!】忌部神社の摂社に祀られた天村雲神伊自波比売神とは?延喜式内社「天村雲神社」

awanonoraneko-blog系

  • awanonoraneko_03_氏族_忌部海人#2009-05-07-天日鷲命とその系譜
  • awanonoraneko_03_氏族_忌部海人#2010-07-19-天日鷲命とは、何者なのか?

awa-otoko-blog系

  • awa_otoko_01_氏族_忌部#2014-10-22-拝府のしめかざり(阿波町_伊勢神社)

ameblo_marine816 / koraku系

  • koraku_00_all#孝安天皇から考察 ① コラクのブログ
  • koraku_00_all#伊勢神宮を考察 コラクのブログ

10. 史料

一次史料・系図

  • 『豊受太神宮禰宜補任次第』(群書類従 第66-68冊所収)— 天牟羅雲命を上祖とする世代系譜
  • 『渡会氏系図』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
  • 『神宮雑例集』— 天牟羅雲命・天日別命の度会遠祖記事
  • 『豊受皇太神御鎮座本紀』— 「天村雲命 伊勢大神主上祖也…阿波國麻植郡座 忌部神社 天村雲神社二座 是也」
  • 『伊勢国風土記』逸文 — 天日別命の伊勢平定
  • 『新撰姓氏録』— 伊勢朝臣・額田部宿祢関連記事

11. 関連ノート(Vault内)

東遷論

関連神格・系譜

阿波説総合


12. 留保(中立的併記)

注意

  • 天牟羅雲命=阿波・天村雲神社祭神、天日別命=天日鷲命の同神説は阿波説的解釈 であり、通説では必ずしも同一視しない。
  • 度会氏の出自について、Vault内には「度会氏も系譜は中臣氏系(伊勢国造)」とする見方も併存する(→ note_kofunjidaishi)。阿波忌部系説と中臣氏系説は両立しない可能性があり、本ノートの阿波説的位置づけは一つの解釈である。
  • 系譜上の世代数・神名には史料間で異同がある(天日別命を『新撰姓氏録』は天底立命の「孫」、度会氏系図は六世孫とする等)。
  • 額田部氏・天村雲命の系譜については、補任次第の天牟羅雲命と姓氏録の天村雲命を「別神のように思える」とする慎重論もある(→ kohun-jinjya_blog)。
  • 本ノートのevidence_typeは “primary_source_based / blog_hypothesis” の混成、confidence は 3。

※本稿は伊賀国造:天日別命の後裔と多賀連の系譜下流(外宮禰宜家)として、また天日鷲命:天岩戸の功績と「鷲」の由来の後裔氏族として、伊勢方面における阿波忌部祖神祭祀の痕跡という観点から位置付けられる。