2. 舞台移動の具体的パターン

要旨

阿波説が説く神話・祭祀の「舞台移動」を二つの類型に整理する論考。パターンA(トポグラフィーのスライド) は、阿波の地形描写を地名ごと畿内の地形に当てはめたとする型で、オノゴロ島(鳴門・沼島)や黄泉の国(入田・伊賦夜坂)を例とする。パターンB(神社・祭祀の勧請=東遷) は、阿波の有力社を王権の移動とともに畿内へ勧請し、畿内側を「本宮」と再定義したとする型で、三輪祭祀・春日祭祀を例とする。記紀神話の舞台移動論の各論を担う。

パターンA:トポグラフィーのスライド

阿波の独特な地形描写を、名前はそのままに畿内の地形に当てはめたもの。

  • オノゴロ島: 潮流の激しい**鳴門・沼島(ぬしま)**の描写が、奈良盆地の内陸部では再現不可能。
  • 黄泉の国: 阿波の**入田(いゅうだ)**にある「イ」の国と伊賦夜坂の地形が、出雲(島根)の描写の原型である。

パターンB:神社と祭祀の勧請(東遷)

阿波の有力神社を、王権の移動と共に畿内へ勧請し、あたかも畿内が「本宮」であるかのように再定義したとする。

  • 三輪祭祀: 阿波の大御和神社から、奈良の大神神社への祭祀移動。
  • 春日祭祀: 阿波の春日神社から、奈良の春日大社への祭祀移動。

二つのパターンの関係

パターンAは「地名・地形の複写」、パターンBは「祭祀・社格の移植」であり、阿波説では両者が連動して働いたと考える。すなわち地名がスライドした先に、対応する祭祀が勧請されることで、畿内側に「地名+祭祀」の整合した景観が後付けで成立したと説明する。ただしこの連動は阿波を元地とみる前提の上での再構成であり、勧請の方向(阿波→畿内)を直接立証する同時代史料は提示されていない。


留保

注意

  • 通説: 大神神社・春日大社などの成立は畿内在地の祭祀・氏族(三輪氏・中臣氏ら)に基づくものとされ、阿波の同名社を本宮(元宮)とする見方は学界の通説にない。同名・類似祭神の神社が各地に存在することは、勧請・分祀の方向を一意に決める根拠にはならない。
  • 阿波説の主張: 本稿の「トポグラフィーのスライド」「祭祀の東遷」は阿波を元地と仮定する阿波説固有の枠組み(evidence_type: blog_hypothesis / confidence: 2)であり、移動の方向や事実性は実証されていない。
  • 地名の音・地形の類似は方向性を持たない双方向の現象であり、どちらが「元」かは類似のみからは判定できない点に留意する。

※本稿は記紀神話の舞台移動:大和から阿波への還移プロセスから詳細化・分割された専門論考である。