課題:年代測定の不確実性と土器編年の相対評価
批判・課題
「阿波の遺跡(萩原墳墓群など)が畿内の最古級古墳(ホケノ山古墳など)より古いという阿波説の根幹は、年代測定の精度に依存している。だが紀元後1〜3世紀は炭素14年代測定の較正曲線が平坦になる『平坦期』にあたり、数十年規模の誤差が避けられない。海洋リザーバー効果も加わり、絶対年代だけで『阿波が先行』とは確定できないのではないか。」
1. 課題の核心:炭素14年代測定の「平坦期」
阿波の遺跡(萩原墳墓群など)が畿内の最古級古墳(ホケノ山古墳など)よりも「古い(先行している)」とする主張は、阿波説の根幹をなす。しかし、弥生時代末期〜古墳時代前期(紀元後2〜3世紀)の年代決定においては、現在の考古科学においても不確実性が残されている。
- 出土した木材や炭化物などの年代を特定する「放射性炭素(C14)年代測定」において、紀元後1〜3世紀の期間は較正曲線(キャリブレーション・カーブ)が平坦になる現象(平坦期)が存在する。
- このため、測定結果から得られる実年代に数十年の誤差(幅)が生じ、「阿波のA遺跡が、畿内のB遺跡よりも20年古い」といった厳密な前後関係を絶対年代だけで確定させることが極めて困難である。
- さらに、海洋性食物を摂取していた集団の骨や貝殻の場合、「海洋リザーバー効果」によって見かけ上の年代が古く出る可能性があり、海人族が活躍した阿波の遺跡の年代評価において慎重な扱いが求められる。
2. 阿波説からの回答:理論的防衛と検証アプローチ
阿波説は、絶対年代の不確実性を認めたうえで、**「相対年代(土器編年)」と「複数システムの移動ベクトルの一致」**で先行性を論証する。
2-1. 土器編年による「相対年代」の厳密な比較
絶対年代(西暦〇〇年)の特定が難しくても、土器の型式変化の順序(相対年代)は極めて信頼性が高い。
- 纒向遺跡の最古層(庄内式以前)から大量に出土する阿波系土器は、阿波の現地における土器編年(阿波VI-1/2型など)の系譜の中に完全に位置づけられる。
- 阿波の土器が「現地で段階的に発達してきた連続性」を持つのに対し、畿内の纒向では「突如として外来系土器として出現」する。これは、土器の製作者集団が阿波から畿内へ移動したことを相対的に(編年的に)証明している。
2-2. 複合的な物証(システム)のベクトルの一致
年代の不確実性を補うため、単一の要素(土器だけ、年代測定値だけ)に頼らず、複数のシステムの「移動のベクトル(方向)」がすべて一致していることを論証の軸とする。
- 墓制のベクトル: 積石木槨(萩原墳墓群 → ホケノ山古墳)
- 土器のベクトル: 東阿波型土器(阿波の在地系譜 → 纒向の搬入土器)
- 地名のベクトル: 吉野・飛鳥(地形的必然性のある阿波 → 必然性の薄い畿内へのスライド)
- 朱のベクトル: 辰砂採掘(阿波・若杉山 → 畿内の初期古墳)
結論
C14年代測定の不確実性は考古学全体の課題であり、阿波説だけが抱える弱点ではない。絶対年代の誤差を補って余りあるほど、「土器編年」「墓制のプロトタイプ」「資源の独占」「地名移動」というすべてのベクトルが【阿波 → 畿内】を示している。この複合的かつ確率論的な証拠の多さこそが、阿波先行説の最も強力な学術的根拠となる。
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