日本書紀 阿波関連箇所抜粋

要旨

『日本書紀』(720年)本文を一次確認し、阿波(粟国)に関わる記述を抜粋・整理する索引。本文を grep 的に照合した結果、従来この索引が掲げていた「神功皇后紀の阿波忌部の麻楮貢納」「持統紀の阿波忌部の麁服調進」は日本書紀本文に存在しないことが判明したため、該当箇所を是正し「本史料に確認できない事項(負の発見)」として明記した(後述)。一方、神代上巻の一書には「粟國忌部遠祖天日鷲」が天岩戸の木綿(ゆふ)を作ったという、阿波忌部を正史本文が名指しする確かな記述が実在することを確認した。

史料概観

  • 成立: 養老4年(720年)
  • 編者: 舎人親王ら
  • 巻数: 全30巻+系図1巻(系図は散逸)
  • 特徴: 漢文体・本紀体。古事記より「正史」としての性格が強い。
  • 原文: 漢文。本ノートの本文照合は zh.wikisource.org(中文ウィキソース)所収の漢文原文(巻1・2・9・30)に拠る。

阿波関連箇所の抜粋

1. 神代上巻 国生み

日本書紀本文は淡路洲・大日本豊秋津洲(本州)・伊予二名洲(四国)の順で生むとし、書中の「一書」によって異伝が併記される。日本書紀は四国を「伊予二名洲」と一括して挙げるのみで、四面の各国名(伊予=愛比売/讃岐=飯依比古/粟国=大宜都比売/土左=建依別)を挙げない。この四面命名と「粟国=大宜都比売」の同定は 古事記固有であり、日本書紀本文・一書には現れない(一次確認:書紀全5箇所すべて未分割、大宜都比賣/愛比賣等の語0件)。

2. 神武即位前紀(卷三)

神武東征の経路(速吸之門・宇沙・筑紫国岡水門・吉備国高嶋宮)に関する記述。阿波の海人族の関与は本文では明示されない。「速吸之門=鳴門海峡」とする比定は 阿波説固有の解釈であり、日本書紀本文に直接の根拠はない(速吸之門の所在は通説では豊予海峡とされる)。

3. 神代上巻 天岩戸の一書(粟国忌部の名指し)

神代上・天岩戸段の「一書(異伝)」に、阿波忌部を正史本文が名指しする記述が実在する。

原文(一書):…下枝懸以粟國忌部遠祖天日鷲所作木綿…

天岩戸の祭具である木綿(ゆふ)を、粟国(=阿波)忌部の遠祖・天日鷲が作ったとする。古語拾遺(807年)の天日鷲命=阿波忌部祖の伝承と整合し、日本書紀という正史本文が「粟国忌部」を固有名で記録している点で、阿波忌部の古さを示す一次根拠として重要。 → 天日鷲命の神格論:天日鷲命:天岩戸の功績と「鷲」の由来/忌部系譜の逐句対比:古語拾遺と記紀の異同:忌部系譜の逐句解読版

4. 持統紀(巻30) 大嘗祭 ── 事実は実在、ただし阿波忌部の名指しは無い

持統5年(691)十一月の大嘗祭記事は実在する(「大嘗。神祇伯中臣朝臣大嶋、讀天神壽詞」)。ただし一次確認の結果:

  • 奉仕国として挙がるのは 播磨・因幡(「供奉播磨・因幡國郡司以下至百姓男女」)であり、阿波は挙がらない。
  • 「麁服(あらたえ)」「阿波忌部」の語は大嘗祭記事に名指しで現れない(麁服/麤服/荒妙/荒栲=0件、阿波=0件)。持統紀の「忌部」は即位段の「忌部宿禰色夫知、神璽の剣鏡を奉る」1件のみで、大嘗祭とも麁服とも阿波とも無関係。

→ すなわち 大嘗祭という事実は書紀に在るが、それを阿波忌部の麁服調進に結ぶのは書紀本文の記述ではない(旧記述「大嘗祭関連で阿波忌部の麁服調進の記録」は是正)。

本史料に確認できない事項(負の発見)

日本書紀本文(巻1・2・9・30を一次照合)に 存在しないにもかかわらず、従来この索引が日本書紀の記事として掲げていた事項:

旧記述(誤帰属)一次確認の結果実際の典拠
神功皇后紀の「阿波忌部の麻・楮の貢納」巻9に該当記事なし(忌部・楮・穀・粟=各0件。「阿波」2件は歌謡の万葉仮名「いざ吾は」で地名でない)阿波忌部の麻・穀栽培は『古語拾遺』(天日鷲命・天富命の伝承)由来。神功紀(三韓征伐譚)には無い
持統紀の「阿波忌部の麁服調進」大嘗祭は実在するが阿波忌部・麁服の名指しは無し(奉仕国は播磨・因幡)麁服(あらたえ)の典拠は『延喜式』巻7・『古語拾遺』・三木家文書。続日本紀にも麁服記事は無い → 09_続日本紀_阿波関連 の負の発見と同じ

これらは阿波忌部関連素材(主に古語拾遺由来)の 出典の取り違えであった。負の発見として明記し、再び書紀の記事として書き戻されるのを防ぐ。

阿波説における位置づけ

  • 日本書紀本文は古事記より阿波の独立性を弱める(四国を「伊予二名洲」と一括し、粟国=大宜都比売の四面命名を持たない)。
  • ただし神代の一書には「粟國忌部遠祖天日鷲」という阿波忌部の固有の役割が確かに記載される(§3)。阿波説ではこれを「正史本文では四国一括に圧縮されたが、一書(異伝)に阿波忌部の痕跡が残された」例として重視できる。この一書の記述は実在を一次確認済みであり、推測ではない。
  • 神功紀・持統紀に阿波忌部を読み込む従来の整理は、書紀本文では裏づかない(上記負の発見)。阿波忌部の文献的根拠は日本書紀の神代一書(§3)と『古語拾遺』に置くのが正確。

関連ノート

留保(中立的併記)

注意

  • 本ノートは一次本文照合(zh.wikisource 所収の漢文原文、巻1・2・9・30)に基づく 照合・是正版。旧版が日本書紀の記事として掲げていた神功紀の麻楮貢納・持統紀の麁服調進は本文に存在せず(負の発見)、是正した。
  • §3 の神代一書「粟國忌部遠祖天日鷲」は実在を確認済みだが、これを阿波(徳島)の具体地・現存神社に結ぶ比定は阿波説固有の解釈であり、一書本文は地理比定までは述べない。
  • §2 の「速吸之門=鳴門海峡」、§1 の四国各国名の阿波説的補完は、いずれも阿波説固有の読みで通説とは異なる。
  • frontmatter の信頼度1は日本書紀という一次史料の地位による。confidence は索引としての本文照合の確度として4(巻1・2・9・30を一次確認。神武紀=巻3等の未照合巻が残るため5でなく4)。

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